三重経路モデル

ADHDの脳研究は実行機能からはじまり、報酬系の機能不全、時間処理の機能が解明されると三重経路モデルと呼ばれます。
ここでは実行機能とワーキングメモリー、報酬系、時間処理の機能の順に解説します。

実行機能とワーキングメモリー

ワーキングメモリーは実行機能の一部です。実行機能とは目的のある計画と行動が実現されるために思考と感情をコントロールする脳のはたらきです。                           目的を持った行動とはふだんの生活の家事や仕事、学習などさまざまなものです。

ワーキングメモリー

ワーキングメモリーは情報の入り口であり、取り入れた情報をキープしたまま何らかの作業を行うことです。                                             例は現金の買い物です。お店で夕食に欲しいものが見つかると、財布の中身を思い浮かべます。いくつかの食材を選び支払い額が概算できればレジに並びます。この所持金の確認から支払い額の暗算までがワーキングメモリーのはたらきです。この時、調味料の買い忘れに気づき買い足すことがあるかもしれません。こちらもワーキングメモリーです。前者の作業は計算という思考活動で後者は注意のはたらきです。                                                                このようにワーキングメモリーは計算や読み書きなどの学習、料理や会話などさまざまな日常生活に関係しています。成長にともなって発達する個人差のある知的能力の一つです。

実行機能と抑制制御

実行機能のはたらきは、企業の執行取締役に例えると分かりやすいです。執行取締役は社員に指令を出し、企業全体で業務が円滑に行われるようはたらきかけます。実行機能のイメージはこのようなものです。
実行機能のはたらきをここでは抑制、更新、切り替えとします。抑制は不要な刺激や衝動、慣習的な思考や行動を抑えることでADHDに特徴的な苦手さであり、更新はワーキングメモリーのはたらきで新旧の情報の置き換えであり、切り替えは行動やルールのスイッチングでおもにASDの苦手さと言えます。
具体例は夕食づくりです。チラシを眺め献立を考えます。お買い得品を気に留めつつ、家族のリクエストや旬の素材に目が届き献立と買い物が決まれば、更新がはたらいています。(買い物は省略)
夕食づくりの時間が近づくとクッキングの準備に入ります。これが切り替えです。クッキングをはじめると、家族の話し声や周囲の刺激に左右されても抑制がはたらき、クッキングはおろそかになることなく夕食づくりは進んで行きます。

報酬系の機能低下

報酬系は脳の神経ネットワークの一部のことです。このネットワークは、活性化されると「快感」や「動機づけ」などが生まれたり高まったりする仕組みになっています。脳の最も古い脳幹から新しい前頭前野を結んでいるため、「快感」は食べることや性行為など本能的いとなみが維持されるためにはたらき、「動機づけ」は目的のある意図した行動が実現されるために作用します。
研究ではADHDは報酬系の機能低下が判明し「あとから得られる大きな報酬」より「今すぐ得られる小さな報酬」を選択することがわかりました。このことから、結果が直ぐに得られるものには取り組みやすいが、持続的な努力を要したり結果が直ぐに出ない課題ではモチベーションは保ちにくく、報酬が遅延されると実力を発揮することは容易ではありません。

時間処理の問題から三重経路モデル

時間管理の問題は不注意の特性に由来すると考えられていましたが、時間処理に焦点を絞った研究が実施されます。
解ったことは現実の時間と主観的に把握される時間感覚のずれがADHDでは、定型発達より大きく統計的な差が認められたことです。時間の長さは過小評価されたり過大評価されたりします。
時間の知覚に誤差があることで、タイムスケジュールに揃えた作業が苦手なだけでなく、経験による細かな作業日程の立案も不得意であるメカニズムが解りました。
このようにして実行機能の抑制制御障害、報酬遅延障害、時間処理障害の3つを合わせたものが三重経路モデルです。