心理療法の各技法
カウンセリング
カウンセリングとは、こられた方とカウンセラーとの対話のことです。対話が症状や問題の改善の手段になるのは、カウンセラーの専門的なトレーニングの積み上げが前提です。また対話は言葉だけではなく絵画や箱庭など言葉以外のものでも可能となります。心理療法には、様々なものがあり、カウンセリングはその中の一つです。
カウンセリングではこられた方の悩みや困りごとから話し合いをはじめます。それにまつわるできごとや対人関係があれば感情を交えお話しいただきます。この段階でも悩みや困りごとが充分語られ、感情が加味された内容をカウンセラーが受け止め共有された時、つらかった気持ちが軽くなる体験を感じていただける場合があります。
話し合いが進むとやがて問題の中心部分やメカニズムがわかり、改善や解決の道筋に進む作業が一緒に行われます。このように説明するとカウンセリングは、一つの定まった方向に導くものであるという印象を与えたかもしれません。でも決してそうではありません。毎回のカウンセリングでは、こられた方が話したい内容や話題をご自分で選択され、話し合うことが基本となっています。
カウンセリングとは、今、現在の悩みや困りごとの解決をはかりながら、何を目指すのか。それを一言でいうなら「あなたが、あなたらしく生きること」です。カウンセリングでは、このことを実現するための一つとして自己理解の作業があります。自分のポジティブ面やネガティブ面をわけへだてすることなくカウンセラーと一緒に見つめることで、今まで気がつかなかったご自分の考え方や感情、行動のあり方が見つかることがあります。
カウンセリングの実際としてうつの例を取り上げます。
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会社員Aさん20代男性、メランコリー親和性性格です。うつは2年ほど経過して休職、医療機関を経由してのカウンセリングです。きっかけは3年前に自身のミスから取引先に迷惑を与え自社に損失を生じさせたことでした(きっかけの仕事)。
社内で謝罪と再発防止策が講じられ、その後は順調に業務に励むものの、1年ほど経過してから調子を崩しはじめ医療機関の受診となりました。情報収集のアセスメントでは同期のBさんときっかけの仕事を行い連帯責任で迷惑をかけたと語られました。Aさんはできごとのふり返りでは、相手の気持ちを想像され、問題点の検討では自身への問いかけを怠ることはありません。
話し合いは中盤となります。話題は気分転換に行った休日のことです。「このあいだ、調子がよくて好きな近場の山道を歩いていると、急に『元気はつらつとしてたら、イカンやろう』みたいな思いが、ふと出てきたんです」「いい気分をキープしたくての山道なのに、ブレーキでした」。このことをめぐり話し合いが行われ、この思いは2年前あたりから、折にふれ出てくることが分かりました。
〈2年前あたりに『元気はつらつとしてたら、イカンやろう』が出てきました。その頃、何か気になることはありましたか〉「2年前ですね、まだ職場で仕事ができてました。部署のDさんの結婚の話が耳に入って『よかったな』って思ってたら、Bさんの話も入ってきました」〈Bさんの話って?〉「Bさんはきっかけの仕事の次の年に異動。病院に通いがちとなり会社を退職、それが2年前」〈Bさんの退職が2年前〉
「そう。でもそれと『元気はつらつとしてたら、イカンやろう』は、どう関係するんだろう」〈・・Aさん、Aさんって誰かと問題が起きると、いつもどう考えますか?〉「・・・・僕が悪いってヤツですかね・・・・あ、あぁ・・・・判ってきた。Bの退職は、僕が関係してる。僕が悪い、僕のせいでBが退職せざるを得なくなった。そう考えていた。あぁ・・・・全部繋がってきた。連帯責任・病院通い・辞職が全部繋がってます。・・俺はとんでもないことをした」。・・・・・・・・。
〈Aさん、AさんのBさんを心配する気持ちと細やかな心くばりがよく分かりました。それで、Bさんの病院通いと辞職について、具体的な中身は掴んでおられますか?〉「細かなことは解りません」〈どうすると判りますか?〉「遠方だし直接聞けない。あっCさん(Bさんの友人)なら確かなこと、知ってるかもしれない」〈連絡取れますか?〉「やってみます」。
次の面接ではCさんからの情報が語られます。異動後の病院通いは現実でも怪我のためでのものであり連帯責任とは無関係で、辞職は転職目的で彼には新しい所でやりたいことがあり、現在は健康に働いているとのことでした。
Aさんの表情に明るさが蘇っています。こうした気づきが腑に落ちる場合と「とんでもないことをした」「辞職まで関係させた」という自分を責めるパターンから抜け出せず、悪循環をとなり、うつを招いた所まで話し合う場合があります。メランコリー親和性性格の人がうつになった場合、このようなふり返りと気づきがつかめると、うつが晴れることがあります。
カウンセリングはこの段階で終了するものではありません。つぎの段階として「自分がこれからどうなりたいのか」という今後に対しての夢や希望を実際の行動のプログラムに具体化する所まで行われます。これからやってみたいこと、それは現実に実行できそうなことなのか、自分には未知の新しい体験なのかを見つめながら、第一歩をあゆむためのシュミレーションを話し合います。そうして新しい一歩ずつを踏み出しながらカウンセリングが進められていきます。
このうつの例は架空事例です。架空といっても、カウンセリングのいとなみをよりよく理解していただくため綿密に構成しました。面接期間は半年~1年程度で回数は週1回で24~48回程度を想定しています。
こんなことが起きたことがあります。ある方は当初から積極的にご自分の問題点を検討され、カウンセリングは順調に進んでいるかに見えました。でも、ある時「つらい。なぜこんなにつらいんだろう」と話されました。
どうしてこんなことが起きたのでしょうか。この方の場合は、問題に直面するには時間が少々早過ぎました。カウンセリングは自己理解の作業であり、それは自己を受け入れることでもあります。この方は自己の受容より問題点の検討を優先されました。そのため理解と受容が不充分な自己のネガティブ面に焦点が直に当り、つらい気持ちが表に出てしまいました。問題解決に取り組みたい一途な気持は、自己受容より問題解決優先という形となり、思わぬ事態となってしまいました。
こうしたことは稀であり、どなたにも必ず起こることはありません。それでも、もしもカウンセリングの中でつらいと感じたり、それ以外のことでも何かを感じたり思ったりするようなことがあれば、どうぞご遠慮なく是非おっしゃってください。そのことを共に分かち合い、どのように対処していくことがのぞましいのか、そのことをご一緒に探ってまいります。
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認知行動療法(CBT:Cognitive behavioral therapy)
認知行動療法とは、問題や症状を認知(考え方)と行動の視点からはたらきかけ、様々な問題を解決に導く技法の総称のことです。認知療法と行動療法は、別々に発展してきましたが認知行動療法と合同されたことで、広範囲の問題や症状を扱うことができるようになりました。
わかりやすく説明するため、行動と認知のアプローチに分けて説明します。
行動のアプローチでは、人は後天的に学習され条件づけられた行動パターンを繰り返すと捉えます。学習された行動パターンを分析して明らかにすることで、適応的な行動パターンへの変化を促すことが可能であると考えます。
認知のアプローチでは、問題や症状が生じるのは、ものごとに対するその人の認知のあり方に何らかの特徴があると考えます。認知のあり方には誰でも癖があります。認知の癖のことを自動思考と呼びます。この自動思考の変化を通して様々な問題や症状を解決していくことが認知のアプローチです。
認知行動療法は、認知療法と行動療法の理論と技法が統合的に用いられます。面接では、悪循環される症状や問題の要因である認知と行動のパターンに気づき、それが修正され、新しい問題解決的な認知と行動が獲得されることを目指していきます。
EMDR:Eye Movement Desensitization and Reprocessing眼球運動による脱感作と再処理法
EMDRは、心的外傷(トラウマ)処理の心理療法です。トラウマとは、心的外傷という過去のできごとに感情が条件づけられたものです。脱感作とは条件づけの解除を行うことです。脱感作されると、心的外傷はネガティブな過去のできごとの一つとなります。
この技法はアメリカ人のシャピロが創案しました。彼女は公園を歩いている時に眼球を左右に動かすと、否定的な思考や記憶の乱れが軽減させることに気づきました。平易な脱感作法の発見です。
左右の眼球運動では、自然な連想が生じます。このことを有効活用することでEMDRの再処理の手法が拡充されました。
ホログラフィートーク
イメージ療法の一つで嶺輝子が創案しました。葛藤解決やトラウマ処理、解離性同一症の治療に用います。こられた方が「かくあってほしい」とのぞむ家族のもう一つの物語を治療者と一緒に創りあげていきます。
自律訓練法
ドイツ人のシュルツが開発しカナダのルーテが改良を加えたリラックス法です。自己暗示によって心身の弛緩作用がもたらされ、本来の健康な状態に整えることを目的とします。現在ではスポーツなどで用いられています。
催眠
催眠は、意識が変容した状態を利用したり、深層心理学が仮定する心の深層にアクセスしたりして、からだとこころに何らかの変化を生じさせます。意識が変容した状態は変性意識状態と呼ばれ、目覚めていても日常的な意識状態とは異なった意識状態のことであり、滝行や座禅の修行でも生じるとされています。催眠は医療と心理療法の目的で行われる時に臨床催眠と呼ばれます。
臨床催眠では、催眠の誘導者が催眠を受ける人におもに言葉によって変性意識状態に導き、催眠を受ける人がのぞむこころとからだの状態について吟味された語りかけを行う時、暗示と呼ばれ治療効果がもたらされます。
マインドフルネス
テーラワーダと呼ばれる東南アジアに伝わる仏教の瞑想から、宗教色を排し医療や心理療法に応用されたもので、アメリカ人のカバットジンが提唱しました。
この瞑想は「すべてのものごとに判断を与えず、今、ここで起こっていることに注意を向けること」とされます。マインドフルネスを行うことで「脱中心化」と呼ばれる作用が生じます。これはものごとに対して適度な距離を置くことができるようになることです。このことにより、うつや不安に対して一定の効果があると考えられています。
家族カウンセリング
家族療法ではIP(Identified Patient:患者と見なされた人)と言って、父母が面接に来室されても、不登校や引きこもりのご本人が欠席の場合があります。肝心のご本人のことをIPと呼びます。
家族療法には家族を一つの有機体とみるシステム論の考え方があります。IPの抱える問題は個人の問題ではなく、家族の問題がそのIPにあらわれたと捉え、家族システムが「問題維持システム」であると考えます。その「問題維持システム」を「問題解決システム」に変えることが、家族療法の基本的な考え方です。このようなことから家族カウンセリングでは原因探しや悪者探しはせず、今ここ(現在)、それから(未来)のことに注意を向けることを基本とします。セラピストはIPや家族にそなわる問題解決能力やリソース(資源)が充分発揮されていくようにうながしていき、家族の問題の解決を目指します。