適応障害[適応反応症]
環境の変化にうまくなじめずストレスとなり、これがきっかけで症状があらわれる疾患です。環境の変化は様々で、就学や就職、転校や転職、結婚や離婚などで生じやすいとされています。症状は自律神経系の症状に加え、行動面では遅刻、欠席、早退、学業や仕事では活動が停滞した状態となります。
症状に不安やうつがあらわれると、不安症やうつ[気分症]となります。
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス症)
死の危険やそれと同じような強い衝撃を受けた後に起こる疾患です。こうしたできごとの目撃や、家族や身近な人の被害に遭遇した時にも発症することがあります。
心的外傷のあとに発症し1ヶ月未満で症状が収まれば急性ストレス障害。1ヶ月を過ぎても継続すればPTSDです。
ストレスとトラウマの比較を分かりやすく説明するためボールにたとえます。ストレスではボールに圧力が加わるとボールは歪められます。これがストレス状態です。ところが加えられる圧力が排除され無くなると、ボールは自然に元の形にもどります。しかしトラウマではトラウマ体験がボールそのものを破壊するため、ボールは元の形にもどることはありません。つまり「癒えない心の傷」となってしまうのです。
PTSDの症状は三つで、侵入・再体験、回避、過覚醒です。
侵入・再体験症状では、トラウマの記憶が恐怖心や無力感とともに、自分の意志とは無関係に日中にフラッシュバックされたり、悪夢として繰り返されたりします。
回避症状では、できごとそのものを思い出したり考えたりすることを避けようとしたり、そのできごとに関係する人やもの、状況や会話を回避したりします。
過覚醒症状では、気持ちが張り詰めドキドキしたり、わずかな物音にひどく驚いたり、怒りっぽくなったりします。
不安
精神医学では不安と恐怖は連続体と考えます。不安はこうした度合いが小さく恐怖は大きいとします。恐怖は恐怖の対象が明確であり、不安ははっきりせず漠然としています。
全般性不安症/全般性不安障害
毎日の生活の中で漠然とした不安を慢性的に持ち続ける疾患です。つきることのない不安や心配ごとのためものごとに集中できず日常生活に支障をきたします。そわそわと落ち着かず些細なことに過敏に反応するため、徐々にからだやこころに症状があらわれます。こうした不安は、こころやからだの症状となり、悪循環を起こしがちとなります。
恐怖 [限局性恐怖症/限局性恐怖障害]
ある特定の状況や対象に対して強い恐怖が生じる疾患です。パニック発作(パニック症)を起こす場合もあります。限局性恐怖症としては動物に対する恐怖(動物恐怖症)、高い所に対する恐怖(高所恐怖症)、雷雨に対する恐怖(雷恐怖症または雷鳴恐怖症)などがあります。
広場恐怖[広場恐怖症]
広場とは限らない特定の場所で強い恐怖心を抱き、日常生活に支障をきたす疾患です。原因は不明でパニック症を合併する場合が多いと言えます。
パニック症
急に動悸やめまい息苦しさや手足の震えなどが恐怖心とともに襲ってくる疾患です。以前は不安発作と呼びました。過呼吸が加わると、息が吸えないと思い込み死ぬかもしれない恐怖体験となります。発作は自分でコントロール不能と考えるため、起きたらどうしようと心配が高まり、発作が起きやすい場所や状況を避けるようになります。とくに電車やエレベーター内などの閉じた空間では逃げられないと思うため、外出が難しくなりがちです。
対人恐怖[社交不安症]
自分が他者にどのように思われているかが心配となり、他人との交流や人前での行為などを回避することにより、日常生活に支障が出る疾患です。症状は顔がひきつったり、赤くなったり、ドキドキしたり、汗をかいたり、手が震えたり、そうした社会的な場面を回避したりすることです。
強迫 [強迫症]
強い不安や恐怖にこだわりがあることで、過剰な考え方や行動が止められず、生活に支障をきたす疾患です。自分の意志に反してある考えが頭に浮かび、払いのけられず反復することが強迫観念、繰り返される行動を強迫行為と言います。
強迫観念にはおもに「不潔強迫」「不完全強迫」「ため込み強迫」「加害強迫」があります。
うつ[気分症]
うつの症状のみがうつ病[気分症]、うつと躁の症状を繰り返すものが躁うつ病[双極Ⅰ型症、双極Ⅱ型症]です。
うつ症状では憂鬱で気分が落ち込みます。心理面では興味や喜びが失われ、注意力や集中力、意欲が低下するもののイライラや焦りが高まる場合があります。身体面では不眠あるいは睡眠過多、食欲低下または増加、体重減少あるいは増加、疲労感や頭痛が生じることもあります。自身を価値のない人間だと思い自殺を考え実行しようとする場合があります。
躁の症状では気分が高揚します。心理面では自分は何でもでき偉くなったと思ったりアイデアが次々に浮んだり、反面一つのことに集中できず気が散りやすかったり、小さなことに敏感に反応しやすかったりすることがあります。身体面では不眠でも疲労を感じず、落ち着きなく大声で口数も多く過活動となり、性欲過多や浪費をするなどの場合もあります。
双極Ⅰ型とⅡ型は躁の状態で区別します。Ⅰ型は躁の症状は強く極端にあらわれ、Ⅱ型は強くはなく、調子がよくて快活に見えるだけの場合があります。
摂食[摂食症] 拒食、過食
食事や運動量と体重や体型のとらえ方が極端で、こころとからだに影響が生じる疾患です。神経性やせ症(拒食症)と神経性過食症(過食症)があります。
拒食症は食事の量を極度に少なくしたり過度な運動をしたりして周囲から見てやせすぎているのに体重増加を恐れ、低体重を維持する行動が目立ちます。
過食症は一度に大量に食べそれを後悔して太ることを恐れ、吐いたり下剤などを使ったり過度な運動をしたりして体重増加を防止します。
愛着(アタッチメント)
愛着(アタッチメント 以下、診断名と準ずるもの以外はアタッチメントと表記)とは、子どもが不安な時、特定の誰か(おもに母親)にくっついて、安心感を得ようとする欲求や行動のことであり、くっついて安心感を得る不安解消のシステムでもあります。愛着(アタッチメント)の問題と愛着(アタッチメント)障害をふくんで用いられる場合があります。
愛着(アタッチメント)の問題
人は生後6ヶ月~3歳頃までに性格と行動パターンの原型ができあがります。安定型、回避型、アンビバレント型、無秩序・無方向型の四つの型でアタッチメントの類型と呼ばれます。成長に従い環境に変化が加わるとこの類型の間に移動が生じたり、そのままであったりします。成人では自律型、軽視型、とらわれ型、未解決型がそれぞれに対応します。児童・青年期やそれ以降に何らかの問題が生じると、本人の対人関係や感情や行動に検討が加えられ、幼少期の養育に焦点が当たることがあります。これが愛着(アタッチメント)の問題と呼ばれるものです。
安定/自律型
安定型の幼児は、不安になっても養育者(母親)の元に行けば慰められ安心できることが分かっています。安心感が得られると、養育者から離れ新しい環境での活動を再開しはじめます。
成人では幼い頃の関係性がベースとなり、相手との関係では気持ちを表現したり受け入れたり頼りにしたり頼りにされたりしながら、比較的安定した対人関係を築くことができます。
回避/軽視型
回避型の幼児は不安になっても、養育者(母親)はストレートな表現や欲求をよしとはしません。養育者から慰めは弱くても得られる時があるため、幼児はくらしの中の不安状況では、不安や養育者への関心や欲求は限りなくないものとしてふるまいます。
成人では人との関わりは淡泊になりがちで、自身のことを隠したり相手を避けたりしながらも一定の距離を維持することで、比較的安定した対人関係を保つことができます。
アンビバレント/とらわれ型
アンビバレント型の幼児は、不安を養育者(母親)に伝えても理解が不充分で養育者の欲求で一貫性のない対応が行われるため、過度な表現で激しく泣いたりしがみついたり、ときに攻撃に転じたりする場合があります。
成人になると、自らの不安と相手への理解が充分でないことがあり、親密さを求める気持ちを伝える時には必要以上に訴えてしまう場合があり、人間関係は安定しにくいことがあります。
無秩序・無方向/未解決型
無秩序・無方向型の幼児が、不安を伝えると養育者(母親)は対応が困難な時があり、養育者自身がおびえたり幼児をおびえさせたりするため、幼児は背を向けながら養育者に近づいたり止まったり、うつろな表情ですくんだり凍りついたりしてしまうことがあります。虐待を受けている可能性があります。
成人では精神的に不安定な時があり、相手との親しい関係を望む気持ちが生じても傷つけられる恐怖心が先立ち、自分から相手を信頼して近づくことが難しい場合があります。ときに解離症を発症していることがあります。
愛着(アタッチメント)障害
アタッチメントを形成することが困難な環境で養育され、生後5歳までに発症するとされます。反応性愛着(アタッチメント)症と脱抑制型対人交流症です。
反応性愛着(アッタチメント)症
ネガティブな感情の仕草があってもポジティブなものの発露は見られず無表情で過ごすことがほとんどです。つねに警戒心が保たれ、対人関係を得たい欲求や行動は表情や仕草からは認めることができません。一人でいることを好み、他者の援助が必要な時でも人との接触を避けようとします。
・自閉スペクトラム症は除外
脱抑制型対人交流症
ためらいや遠慮がなく、誰に対しても馴れ馴れしい態度で関わろうとします。慣れていない環境では養育者と一緒でも、どんどん先に進みふり返ることはほとんどありません。
・除外はADHD。しかし本項翻訳の研究者からは、ADHDより自閉スペクトラム症の積極奇異型に似るとのこと
解離性障害 [解離症] 健忘、遁走、解離性同一性障害[解離性同一症]
自分が自分であるという意識や記憶、感覚などが一時的に失われた状態の疾患です。解離性健忘症、解離性遁走症、解離性同一症があります。
解離性健忘症では、自分にとって重要な記憶がすっぽり抜け落ちます。記憶に空白期間がみられます。長さは数分から数十年にも及ぶこともあり、全生活史健忘の場合もあります。
解離性遁走症は、過去の記憶の一部またはすべてを失い、家族や仕事を残してふだんの生活の場から姿を消し、遠く離れた場所に突然に移動してしまいます。
解離性同一症は、かつて多重人格障害と呼ばれ、一人の人間の中に全く別の人格が複数存在する疾患です。