読書案内です。
ネットはピンポイントの情報入手には便利でも、こころの問題となると人間理解に根ざした幅広い知識と情報が大切です。時間はかかっても、そのための一つの方法が読書です。
ご紹介する図書は、残念ながらその分野を網羅的に調べられてはいませんが、手元にあったり図書館や書店で目にしたりしたものから優れたものを選びました。
一冊目は神経多様性の乳幼児を持つ保護者の方に、お勧めの図書です。
『発達障害 最初の一歩-お友だちとのかかわり方、言葉の引き出し方、「療育」の受け方、接し方』松永正訓 中央公論新社 2020.10.7.
(似た書名に「発達障害はじめの一歩 ― 特別支援教育のめざすもの」があります。お気をつけください)
著者は小児外科医。神経発達症の専門は小児神経科か児童精神科ですが、内容は卓越したものです。
神経多様性の概説は必要にして充分な内容がコンパクトにまとめられ、中心は神経多様性の代表例を事例形式でピックアップしています。初めての受診から、乳幼児健診(1歳半・3歳)、市町村が実施する児童発達支援(就学前の障害のある子たちの支援事業)へ、さらにその後のフォローアップ体制までを分りやすい言葉で書かれています。
このような場合の養育者の受け止め方や関わり方などは全体をとおして伝わってきます。
発達支援の実際としては、作業療法や感覚統合の概説、心理面では発達検査やABA(Applied Behavior Analysis応用行動分析)の中身、自閉症へのTEACCHプログラムなどのエッセンスが平易に解説され、いくつかのアイデアは育児にも取り入れ可能であり、これ以外にも乳幼児の育児に役立つさまざまな知識と情報が満載です。
書名どおり、お母さんが最初に手に入れるのに、ふさわしい一冊であると思われます。
二冊目は成人のADHDの方への図書、熟読され中身が使えるととても便利なものとなります。
『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』 中島美鈴 光文社新書 2018.9.13
大人のADHDに特化した本です。著者は臨床心理士でADHDの認知行動療法家。ADHDに特化でも、不注意優勢型いわゆるADD特有の問題についての記述はありません。
ADHDについての最新の研究成果と認知行動療法が厳選され読みやすく書かれています。
前半はADHDの医学的な概説、医療機関の診断と治療法、お薬の解説は臨床心理士であるため省略。著者が定義するADHDタイプのチェックリストもあります。
後半は心理教育としてADHDの困りごとのメカニズムを解説した上で、認知行動療法の実践につないでいます。中身は「優先順位の決定」「自己報酬マネージメント」「スケジュール帳の活用」「失敗しない計画立案」「時間短縮のコツ」「過集中の対処法」「アンガーマネージメント」です。当事者ならではのポイントを押さえた対処法が語られています。終章ではこうした実践は、単独よりグループで行う方が効果的であることが強調されています。
最後はADHDの周りにいる人たちの課題で、家庭では親、職場では上司です。当事者と周りの人の双方の理解と受容がなされた上で対処の具体策が提案されています。
ADHDへの理解が深まり認知行動療法のノウハウには目が開かれる思いがします。当事者の方に一読されることをお勧めする一冊です。