今回は「神経多様性(発達障害)」と題してふだん感じていることを書き、次回はそれに関係する読書案内を行う予定です。

1.神経多様性(ニューロダイバーシティ)という視点
「神経多様性(ニューロダイバーシティ)」という言葉をご存知でしょうか。これは1990年代後半に、オーストラリアの社会学者ジュディ・シンガーが提唱した考え方です。
発達障害などを「治すべき病気や欠陥」として捉えるのではなく、脳や神経の働き方は「自然なバリエーション(多様性)」であるとするものです。一人ひとりの違いを個性として尊重し、その特性を社会の中で活かしていこうとする考え方に基づいています。
ホームページの本文では、初めての方へのわかりやすさを優先し、一般的に馴染みのある「発達障害」という言葉を使っています。しかし、このブログではあえて「神経多様性(Neurodiversity)」という言葉を用い、この考え方を大事にしたいと思っています。

2.ASDとADHDは「一括り」?
数ヶ月前のこと。信頼する精神科の先生に成人女性の相談を持ちかけたことがあります。「それ、自閉スペクトラム症の症状ですね。まずそこ、自閉の方はいろんな症状がありますから」
〈でもその方ADD(不注意優勢型ADHD)で、特有の症状があるんです〉
「そうなんですか。でもウチはASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)を特には区別しません。たいてい両方持っておられますから」。
そう聞くと〈…解りました。ありがとうございました〉と相談を終えたことがあります。当方としては、ASDや多動・衝動型のADHDの問題ではなく、ADD特有の症状について検討したかったのですが、両者を一括りにすることが前提の診断・見立ての前では、それ以上ADDに特化したやり取りを深めることができませんでした。

同じ頃、EMDR学会の大会に参加すると別の精神科の先生に出会い、よく似た話題になりました。「児童精神科(神経発達症専門)と、大人しか診ない精神科では違いますね。大人だけ診てると、どうしても一括りですね」とのこと。

3.科学の視点:遺伝子と環境が描き出す「分岐点」
学会では杉山登志郎先生が登壇、「ASDとADHDは共通の遺伝的要因があります。エピジェネティクスによってASDとADHDに分かれることになります」と発表、これはLD学会でも耳にする話題です。

この場合の遺伝は多因子遺伝と呼ばれるものです。複数の遺伝子が組み合わさり影響を及ぼし、そこに環境からの相互作用であるエピジェネティクスが関与する仕組みです。エピジェネティクスとは遺伝子のオン/オフを切り替えるものです。ASDとADHDの遺伝的要因は全く同一ではなく共通部分があり、その部分に生育環境(エピジェネティクス)が加味されると、オン/オフのスイッチが入り、ASDとADHDに分かれて行くというものです。

これを比喩で表すなら、共通の遺伝的素因という「種」が、育つ環境という「土壌」によって異なる芽を出すようなものです。ASDとADHDの遺伝的要因には重なり合う共通部分があり、そこに生育環境が加味されることでスイッチが作動し、それぞれの特性へと分かれていく。つまり、同じ一つの「種」であっても、まかれた土壌の条件によって、二つの異なる植物が生まれるということです。

4.教室の風景 ケアレスミスと「面倒見のよさ


毎年、特別支援教育士の京都府の集まりが6月にあります。今年はお昼休みに旧知のA先生が話しかけてこられました。「5年の男子、ADHDで明るくて元気。時々、トラブルを起こします。相手の子は決まって同じ子。その子は家庭にちょっと(問題があります)……」。
「ADHDの子(Bくん)は勉強ができ口も立ちます。二人の口論ではBくんが目立ち、相手が手を出すと二人でけんか。相手の子は神経多様性とは無縁(で生育歴に課題)です。でも、ぱっと見は二人ともちょっと乱暴に見えて同じ。子どもの理解が一番大事なことは分っていますが、これからどんなことができるのかなって、思って……」
〈そうなんですね。で、その子にうっかり(不注意)は?〉
「少ない方(このタイプでは)、でも算数の文章題で単位の書き忘れをしては『あぁ、100点やったのに』とよく言ってます」
〈なるほど…。で、いい所は?〉
「よく動きよくしゃべる。で、よく見ると周りの子への面倒の見がいい所があります」
〈それいいですね。面倒見のよさって、どんなふう?〉
「PCを使った授業だと『これ、どう(解る)?』って聞いて、分らない子に教えてますね」
〈それ、もっと広がるといいですね〉
「広がるって?」
〈クラスのみんなに広がる、みんなに認められて広がって行く……〉
「みんなが認め、そのよさが広がる。なるほど…、あの子のよさがみんなに認められ、それが広がる。……そうすると…、あの子も少しずつ変わって行くかもしれない……」。

5.「よさ」が認められ、広がっていく未来へ
ここには、子どもの神経多様性をきちんと捉える小学校の先生がおられました。一人ひとりを大事にするしっかりした先生です。短い会話の中には併存がない(と思われる)ADHDの子の姿がくっきり描かれていました。

みなさんは、Bくんの将来をどのように想像されますか。もしもA先生のような大人が彼の環境を整えたとすれば、彼の多動性や衝動性はそのまま「高いエネルギーや行動力」へと変換される可能性があります。算数の100点を惜しむような高い知的能力があれば、多少の不注意が残ったとしても、成長とともに自分なりの対処法を身につけていくことでしょう。

もしかすると彼の面倒見の良さが発揮され、みんなの中心にいるリーダーへと成長しているかもしれません。BくんとA先生の話題は、そんな未来を予感させてくれました。
(※A先生、Bくんの発言の中身は、プライバシー保護のため架空の構成としています)