
発達性学習症(学習障害)
発達性学習症は国際基準(世界保健機構 ICD-11)では、全般的な知的発達には問題がないのに「読む」「書く」「計算する」など特定の学習のみに困難が認められる状態とします。
文部科学省は特定の学習を「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」と捉え、修得が困難に直面する状態とします。
ここでは「読む」「書く」の習得不全である発達性読み書き障害の概説を行います。
発達性読み書き障害
発達性読み書き障害(ディスレクシア)とは、知的能力に問題がないのに文字の「読み・書き」に著しい困難を抱える状態です。それぞれ読字障害(読字不全)、書字障害(書字表出の不全)と呼ばれます。
文字は読めないと書けません。そのため読字障害は書字障害につながります。読字障害は文字が全く読めない状態から、正確性に問題があったり、つっかえたり言い直したり、逐次読みや手を添えて読んだりするなどの幅があります。
そのため心理検査の実施により判別が行われます。書字障害も同様です。
これらの要因とされる音韻障害と視覚認知障害について解説します。
音韻障害
音韻障害は聴力に問題がないのに、聞こえた音を意味のある言葉として捉える能力と、その上で言葉を構成する音を入れ替えたり削除したりする能力の、どちらかまたは双方に問題がある状態です。
問題は聴力ではなく脳の機能にあると考えられています。これらの能力を音韻認識と呼びます。
この能力は4、5歳頃が獲得期であり、「で/れ」等の聞き誤りは成長に伴い改善されることが多くても、正確な音の聴取は音韻認識の土台です。文字学習の段階になっても不正確な音の聴取があると、これらの障害につながる可能性があります。
言葉を構成する音を操作する能力では、先ほどの「で/れ」は直音で音の単位(モーラ・拍)と文字の対応は1音に1文字と固定です。例えば「いちご」は3音節で「い」「ち」「ご」と3拍で数え3モーラです。
特殊音節でも促音、撥音、長音は1モーラで、例えば「きって」は「き」「っ」「て」と3拍で数え3モーラです。しかし拗音だけは2文字を一塊にするので、「びよういん(美容院)」は5モーラでも、「びょういん(病院)」は4モーラとなります。
こうした音の単位の獲得は就学前には自然に培われると考えられています。幼児期に言葉遊び(しりとり、回文[「しんぶんし」のように上から読んでも下から読んでも同じ言葉を作る遊び]、アナグラム[「とけい」を「けいと」とカナを並び替えて別の言葉を作る遊び])や替え歌などを楽しむことがあります。
音を操作する能力は、このような遊びをとおして自由に駆使できる状態となります。けれどもこうした遊びの経験があまりなかったり、文字に興味を示さなかったりする場合は、読み書きに困難を示す可能性が高くなると考えられています。
視覚認知障害
視覚認知障害は視力や視野に問題がなくても、見えたものをその通りに捉えることが難しく文字がぼやけて見えたり、二重に見えたりする等の状態です。
人間の脳をコンピューターに置き換えると、感覚器官の目は正常にはたらいて入力作業が行われても、脳がエラー情報としての取り込みを行う状態と言えます。
視覚認知障害があると文字学習の段階では、文字の形や位置、大きさを正しく捉えることが難しく、読む場合には読字障害に繫がることがあり、書く場合には文字の形や大きさがバラバラになったり鏡文字を書いたりする書字障害が生じることがあります。
特別支援教育
読み書き障害は小学校入学後に見立てと手立て(特別支援)が実施されます。現在の保・幼・子ども園の年長組では、言葉遊びや文字遊びがほとんどの所で行われています。
そのためこの問題の可能性はある程度予想が立つことになります。このことを「園」と保護者は共有することが大切です。
地域の学校に入学予定であれば連携が図られます。保護者は可能性も含めて子たちが持つ事情と希望を小学校に伝えることができます。連携が取られると小学校は体制を組み入学時から計画が実施されます。
複数教員の協力により1年くらいを目途に取り組みが行われます。見立てと手立ての進捗によるものの、多くの子たちは二年生に上がる頃には改善が見られ、支援は見守りに移行し学習は集団での学びに戻る場合がほとんどと言えます。
(特別支援教育の中身は各市町村で温度差があっても、この取り組みは要のものであり、多少のばらつきは認められても一定水準は期待することができます)。
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